MBAの取得を考えている人でも「MBAは何の略か?」「MBAはどういった学問か?」など、基本的とも思えるこれらの質問に答えられない人が少なくありません。MBAの取得を考える際はまずMBAとは何か?という基本的な知識を押さえるところから始めていただければと思います。
MBAを理解するための7つのポイント
MBAを正しく理解いただくためのポイントは以下の7つです。
- MBAはMaster of Business Administrationの略称である
- 日本語では「経営学修士」ではなく「経営管理学修士」と訳すのが妥当である
- MBAはアカデミックな学問とは一線を画す、よりプラクティカルな「実学」である
- MBAは特定の地域でのみ効力を発揮する「資格」ではなく、世界で通用する「学位」である
- 日本のMBAには「自称MBA」が多く存在し、国際的な評価も低い現状がある
- MBAは「スペシャリスト」ではなく「ゼネラリスト」を養成するプログラムである
- 実学たるMBAの教員にはビジネスの第一線での実務経験が必要不可欠である
それぞれについて以降の章で詳しく説明させていただきます。
アカデミックな学問とは一線を画すMBA
「MBAとは何の略でしょうか?」
これは当校のオンライン説明会でもよく参加者の方々に問いかけている質問ですが、一見簡単そうなこの質問によどみなく答えられる人は実はあまり多くありません。MBAを取得したいと考えている人でさえも正しく答えられる方が少ないということは、日本でそれだけMBAに対する理解が浸透していないことを意味しています。
MBAとはMaster of Business Administrationの略であり、日本語で言うと「経営管理学修士」という訳になります。MBAに関する様々な情報媒体では単純に「経営学修士」と訳すケースが多く見受けられますが、それではMBAの「A:Administration」の部分を軽視してしまっているのではないかと我々は考えています。組織の経営においてAdministration:管理の要素は欠かすことができない非常に重要なものです。
また単に「経営学」といった場合、本来それはアカデミックな学問(Academic Degree Programme)である経営学を差します。「経営学」を正しく英語で訳すならば「Master of Science(MSc) in Management」が適切と言えるでしょう。
一方でMBAはそういったアカデミックな学問とは一線を画す、よりプラクティカルな実学(Professional Degree Programme)なのです。欧米ではこの分類が明確になされているのですが、日本ではこの境目が非常に曖昧な状態になっていて、これがMBAに対する正しい理解が進まない大きな原因となっています。
欧米と日本の学位区分の違い
【欧米の場合】
学位の区分 | Academic Degree | Professional Degree |
学位名称 | MA、MSc | MBA |
【日本の場合】
学位の区分 | 研究者養成 | 高度専門職業人養成 |
学位名称 | 修士(経営学) | 〇〇修士(専門職) ※〇〇部分の記載は14種類以上 |
欧米ではAcademic DegreeはMAやMScといった名称の学位となり、Professional DegreeがMBAという名称になります。Academic DegreeをMBAと呼ぶことはありません。
一方で日本はというと、欧米と同じように研究者養成(Academic Degree)と高度専門職業人養成(Professional Degree)で学位区分が分かれ、学位名称も別々に規定されてはいるのですが、問題は「学位の区分」も「学位名称」も異なる学位がすべて一緒くたのようにMBAとして扱われている現状にあります。欧米の基準で考えれば、研究者養成(Academic Degree)の学位はMBAとはなり得ませんが、日本ではMBAと呼称されている(学位授与機関自体が呼称している)例が多々見受けられます。
しかも、いずれの学位名称も正確に英訳した際に決して「MBA」とはならないことに注意が必要です。いったい何を根拠としてMBAと呼称しているのでしょうか?甚だ疑問です。
MBAは資格ではなく学位である
また、WebなどでMBAについて調べると、かなり多くのページでMBAを「資格」として扱っている事例を見つけることができますが、MBAは資格ではなくれっきとした学位(Master=修士)になります。
資格とは、講習への参加や試験への合格によって得られ、何かを行う際に必要とされる地位や立場を示すもので、多くは特定の地域や国のみで有効なものです。
一方で学位は、教育機関における特定分野の教育課程の修了、または一定の学術的な達成や研究業績によって授与される「栄誉称号」になります。栄誉称号である学位は地域や国の枠組みを超えて世界中で通用します。
MBAはよく中小企業診断士の資格と比較検討されていますが、中小企業診断士は日本でしかその効力を発揮しえない「資格」です。一方でMBAを取得した人は世界中どこに行ったとしてもMBAホルダーや修士として扱われます。得られる知識や能力に似通った部分があったとしても、資格と学位では全く異なる性質を持っているということをご理解いただければと思います。
日本のMBAの問題点とは?
先に日本では学位の区分が曖昧であることとお伝えしましたが、それには「日本にはMBAを規定するルールが存在しない」という大問題が深く関わっています。これを聞くと驚かれる方も多いのですが、日本の文部科学省では「MBAとはどういう学問であるか?」という基準を一切設けていません。そのため日本ではMBAの解釈が各教育機関に委ねられており、結果として学位の分類が曖昧で統一性のないMBAプログラムが氾濫してしまっているのです。
一方で英国の場合、高等教育機関の教育水準を安定的に保つ目的で設立されたQAA:Quality Assurance Agencyという独立機関が、英国内で授与されるMBAを含めた学位をそれぞれ厳格に定義づけしており、各教育機関はそれに則ったプログラム運営を行っています。そのため英国で取得できるMBAはそのすべてが一定基準の教育が担保されていることになります。
また、英国のように国家的な位置づけの機関による基準が存在していない場合には、国際的な専門機関による評価・認証を受けることがMBAの世界ではスタンダードになっています。有名なところではAACSB、AMBA、EFMDがMBA教育における世界三大認証機関と呼ばれ、多くのビジネススクールが自校の教育の質を証明するためにこれらの機関による評価・認証を受けています。
日本では国、あるいは国家的な組織・団体による基準が存在しないにも関わらず、こういった専門機関による評価・認証を受けているMBAの教育機関はごくわずか(2022年10月現在で8校)しかなく、その他の教育機関のMBAプログラムについては、自校以外にMBA教育の質を保証してくれる裏付けがない状況にあります。これでは「自称MBA」と揶揄されても致し方ないでしょう。
MBAの世界ランキング
世界中のMBAプログラム(ビジネススクール)をランキングして発表する媒体はいくつかあり、「QS Global MBA Rankings(Quacquarelli Symonds)」「FT Global MBA Ranking(Financial Times)」「Which MBA?(The Economist)」の3つが著名です。
それぞれの最新ランキングによるトップ10の教育機関は以下の通りです。
QS Global MBA Rankings(Quacquarelli Symonds)
1位 | Stanford Graduate School of Business/米 |
2位 | Penn(Wharton)/米 |
3位 | MIT(Sloan)/米 |
4位 | Harvard Business School/米 |
5位 | HEC Paris/仏 |
6位 | INSEAD/仏 |
7位 | London Business School/英 |
8位 | Columbia Business School/米 |
9位 | IE Business School/西 |
10位 | UC Berkeley(Haas)/米 |
FT Global MBA Ranking(Financial Times)
1位 | University of Pennsylvania(Wharton)/米 |
2位 | Columbia Business School/米 |
3位 | INSEAD/仏 |
3位 | Harvard Business School/米 |
5位 | Northwestern University(Kellogg)/米 |
6位 | Stanford Graduate School of Business/米 |
7位 | University of Chicago(Booth)/米 |
8位 | London Business School/英 |
9位 | Yale School of Management/米 |
10位 | IESE Business School/西 |
Which MBA?(The Economist)
1位 | IESE Business School/西 |
2位 | HEC Paris/仏 |
3位 | University of Michigan/米 |
4位 | New York University/米 |
5位 | Georgia Institute of Technology/米 |
6位 | SDA Bocconi/伊 |
7位 | EDHEC Business School/仏 |
8位 | University of Washington/米 |
9位 | Carnegie Mellon University/米 |
10位 | IMD/スイス |
※現在はランキングを閉鎖
評価基準がそれぞれのランキングで異なることもあり、トップ10の顔ぶれはさまざまですが、ほぼ欧米のビジネススクールで上位が占められていることがお分かりいただけるかと思います。日本のMBAはいずれのランキングでもトップ100にも入らない残念な状況にあります。
日本のビジネススクールの中には「日本ランキングで〇位!」といったように、ことさら高評価であるかのように宣伝するところもありますが、世界的なランキングでの存在感は皆無と言ってよく、欧米のみならず他のアジアの有力ビジネススクールにも後れを取っているような状況です。これにも上記で説明した日本のMBAの問題点が影響していることは明白です。世界的な評価を重視するならば、必然的に日本のMBAは選択肢から外さざるを得ないでしょう。
MBAの本質を理解したうえで選択を!
日本ではMBAの定義が公には存在しない状況のため、本来MBAと呼べないようなプログラムもMBAという名称を伴って世に出回っています。これはグローバルスタンダードからはかけ離れた由々しき状況です。
なかでもMBA in AccountingやMBA in Financeというような呼称でPRするプログラムがあれば、それらは直ちに選択肢から除外してください。本質的にMBAは会計やファイナンスなど特定分野のスペシャリストを養成するためのプログラムではなく、経営管理に関わる広範な知識やフレームワークを実践的に教授し、経営管理のゼネラリストを養成するためのプログラム※なのです。
※英国ではMBAを「General Management Carrier Development Programme」と位置づけ、特定分野のスペシャリスト養成のプログラムについては「Specialist Master’s Degree Programme(MScなど)」として、明確に区分しています。
会計やファイナンスだけを学んでも経営管理には不十分なことは明白です。また、そういった特定分野を重点的に学ぶプログラムにMBAという名称を使用することは極めて不適切なことなのです。
会計、ファイナンスはもちろん、マーケティングやHRM、リーダーシップなどの課目を含めて包括的に経営管理を学び、経営者の視点でビジネス全体を俯瞰的に見渡せる広い視野と能力を獲得することが、MBAという学問の本質であるということを忘れないでください。
MBAプログラムの典型的な課目構成
教員のバックグラウンドも重要なチェックポイント
また、いわゆる「自称MBA」を含む日本のMBAプログラムでは、一般企業等での就業経験のない純粋なアカデミック教員が大半を占めるケースも多くありますが、そういったプログラムにも注意が必要です。
実践的学問であるMBAの教員には、経営管理に関する豊富な知識は当然のこととして、ビジネスの第一線における実務経験が必要不可欠であると我々は考えています。論理だけに精通した「宮廷詩人」のような生粋のアカデミック教員から、現実のハードなビジネス環境における実用的な知識や対策を実践的に教わることは不可能と言わざるを得ません。
MBAプログラムを選択する場合は、カリキュラムの内容や教員の経歴や構成までを踏まえて良く確認するようにしてください。充分理解しないままに高い授業料を支払うことはやめましょう。
選択の際、第三者評価や認証の有無は有効な指標の1つとなります。少なくとも、明確な基準のもとで一定のMBA教育の質が保証されたプログラムを選択することが必要です。「MBAとは何か?」「何をもってMBAと謳っているのか?」を教育機関の担当者に問うことも1つの方法です。明確に答えられないようならばその時点で選択肢から外しましょう。