日本の大学院や専門職大学院のMBAと海外大学のMBAは何が違うのでしょうか?主に「学位名称」と「品質評価/管理」の観点から、日本のMBA学位の問題点と、日本のMBAを選択する場合のポイントについてまとめました。

学位名称が氾濫する日本

MBAとはMaster of Business Administrationの略ですが、実は日本の大学院や専門職大学院で取得できる修士学位の中に、正式名称が「MBA」であるものは存在しません。当然、どの学位も正式名称は日本語になるわけですが、それを正しく英訳した際に完全に「MBA」となる学位は存在しません。実はこのことが日本のMBAの、ひいては高等教育全体に及ぶ大きな問題を象徴しています。

では、日本の教育機関で取得できるビジネス領域の学位の正式名称は何か?というと、これは各教育機関により実にさまざまです【表1※専門職大学院の例】。一例をあげると、「経営修士(専門職)」「経営学修士(専門職)」「経営管理修士(専門職)」「ビジネス修士(専門職)」「国際経営修士(専門職)」などがあります。似通った名称が多く、紛らわしいことこのうえありません。
※専門職大学院の学位にはすべて(専門職)が付きます。

表1「令和4年度専門職大学院一覧」

出典:「令和4年度専門職大学院一覧」文部科学省
※名称が異なるこれらの学位をまとめて「MBA」として扱うことには無理があります。

そもそも、同じ学問領域の学位にこれだけたくさんの名称が存在すること自体が世界的に見れば特異なことです。実はこれはビジネス以外の学問領域にもわたって存在する問題であり、いうなれば「学位名称の氾濫」が日本では起きているのです。

さらに問題なのは、これらの名称の異なる学位が、なぜかすべて一緒くたにMBAとして扱われてしまっている点です。教育機関自らが正式な学位名称を使わずにMBAと名乗っているケースも数多くあります。なかには、名称に経営管理の「け」の字やビジネスの「ビ」の字すらないにも関わらず「MBAコース」を名乗っているケースもあります。

文部科学省は専門職大学院の発行する学位の英語名称について、「Master of ○○ (professional)」とすることを規定しています【表2】。それにも関わらず、自らの発行する学位を世間的にも知名度がある「MBA」と名乗ってしまうのは、ある種の優良誤認とも言えるのではないでしょうか?

表2「Comparison with Master’s Courses」

出典:「Outline of the Professional Graduate School System」文部科学省
※文科省は専門職大学院の発行する学位の英語名称を「Master of ○○(professional)」と定めています。

今後ますますグローバル化する国際社会の中で、これらの学位名称に関わる問題が、日本のアカデミズムの将来に大きな悪影響を及ぼす可能性があることを指摘する専門家の声も少なくありません。

文部科学省はMBAを規定してはいない

この事実を知ると驚かれる方が多いのですが、日本にはMBAを公に規定するガイドラインが存在しません。

文部科学省は学部学科等の設置認可は行うものの、特定の名称を持つ学位が「どういったシラバス・カリキュラムを修了した者に授与される学位であるか」を規定してはいません。当然MBAがどういう学位であるかについても規定してはいません。文部科学省にはそれを規定する部門はなく、本来であればその任を負うに相応しいと思える独立行政法人にも対応する規定はありません。

規定がなければどうなるか?必然的に「MBA」の定義はぶれます。都合の良い手前勝手な論法によってMBAの拡大解釈がはびこってしまっているのが今の日本の現状と言えます。これはMBA教育の世界基準から大きくかけ離れたまさに「ガラパゴス」の状態であり、非常に由々しき事態であると我々は考えています。

仮に「当校ではMBA学位が取得できます。」と謳っている日本の教育機関があったとしたら、注意深くその実態を見極める必要があります。なぜならそれはMBAたる裏付けを持たない「自称MBA」でしかない場合がありえるからです。

英国と日本のMBAの違いは品質管理の有無

一方で英国の場合、国内における高等教育の品質評価や管理を担う独立機関:QAA(Quality Assurance Agency for Higher Education)がMBA等の学位を厳格に定義付けして、教育品質の管理を行っています。

QAAの「Subject Benchmark Statement」

Subject Benchmark Statement – Master’s Degrees in Business and Management(P.3)|QAA

上記の表はQAAがビジネス/マネジメント領域の修士号の分類について規定している『Subject Benchmark Statement』から抜粋した「ビジネスおよび経営学における修士課程の類型(Typology of master’s in Business and Management)」です。

赤枠で囲ったType2がMBAなどの「ビジネス経験者向けのキャリア開発を目的としたゼネラリスト養成のための学位」として規定されています。一方でType1は「ビジネス未経験者向けのゼネラリスト養成のための学位(MA or MSc in Managemrntなど)」、Type3は「ビジネス未経験者向けのスペシャリスト養成のための学位(MA or MSc in Marketingなど)」、Type4は「ビジネス経験者向けのキャリア開発を目的としたスペシャリスト養成のための学位(Executive Programmeなど)」であり、MBAとは明確に線引きされていることが分かります。

ところが日本の場合、このType1~4までの学位がすべてひっくるめて「MBA」として扱われる「ごった煮」のような状況にあるのです。英国ではType3にあたるスペシャリスト養成のための学位が、日本では「MBA in Accounting」や「MBA in Finance」などと、ある意味で不当にMBAを伴う形で表記されて世に出回っているケースが見受けられます。また、日本ではType1の学位も多く存在していますが、これらも英国であれば「MSc in Management」などと表記されるべきものが、「MBA」として表記されてしまっているケースもあります。

日本のMBAは学位名称も学問領域も、すべての区別があいまいな状態で一括りにされており、英国では考えられないようなカオスな状態にあるのです。

MBAは「第三者による評価・管理・認証」が重要

前述の通り、英国ではQAAがMBAなどの学位を厳格に定義付けして、教育品質の評価・管理を行っています。こういった第三者機関による評価・管理は「お墨付き」とも言い換えることができます。当然ながら当校のプログラムを修了することで取得できるアングリアラスキン大学のMBA学位にもQAAによる「お墨付き」があります。

第三者による評価・管理を受けているということは、MBAの教育機関として一定の質を保持していることの証明ともなります。逆に第三者による評価・管理を受けていないということは、MBA教育の質を担保してくれるものが自校の主張以外には存在しない、つまりはMBAを自称しているに過ぎないということです。そのため、英国のように国家的な機関による評価・管理システムがない海外の主だったMBAスクールは、ほとんど例外なく何らかの第三者による認証を受けて、自校のMBA教育の質を担保しています。

国際的なMBAの世界ではこの第三者認証[Accreditation]が重要な意味を持っており、有名なところでは世界三大認証機関(AACSBEFMD(EQUIS)AMBA)と呼ばれるような認証機関があり、それぞれに設けた多項目にわたる審査基準により、世界中のMBAの教育機関(プログラム)の評価・認証を行っています。

まだ数は少ないものの、日本にもこの問題を認識している教育機関はあり、それらの教育機関は第三者認証を取得しています。そのため、日本の教育機関でMBAを取得しようとする場合は、まずこの第三者認証の有無が重要な選択のポイントとなるでしょう。
ただし、それでも正式な学位名称はあくまで日本語であり、正しく英訳した際に完全な「MBA」とはなりません。

自称MBA校に要注意(当校YouTubeチャンネルより)